理事長挨拶
脳性麻痺は日本では1000 人の出生中 1.7 人もしくはそれ以上が発症し、根本的な治療法がなく、生涯にわたって生活や社会参加が制限される重大な神経疾患です。障がいは 運動機能だけでなく知覚、認知、情動、コミュニケーション機能に及び、しばしば二次的な筋骨格の変形やてんかんを合併します。多様な障がいを伴うため、多くの診療科の医師と療法士、心理士、看護師などの多職種が連携して関わる必要があります。さらに、ご本人とご家族の生活の質(QOL)を高めるためには、医療の発展に加えて保育・教育・福祉資源および社会環境の整備が不可欠です。
かつて日本では、機能訓練と教育を合わせた療育という概念が導入され、当時としては先端的で包括的な介入システムを成立させていました。しかしながらその発展は不十分で、療育・福祉資源の地域格差は大きく、患者さんやご家族が全国で均一な療育・福祉サービスを受けることが困難な状況です。特に成人期以降の医療・福祉サービスは乏しく、中年期からの機能やQOLの低下を防ぐことができていません。また、患者登録システムがないため、医療・福祉行政が基盤とするべき全国的な統計データも不足しています。
障がい者医療・福祉の先進国では、多科・多職種と患者・家族が連携する学術団体が存在し、新たな医療・福祉システムを作り上げています。また、そのような団体が主体となって発症率や重症度などのサーベイランスを行い、行政や学術機関に提言を行っています。しかし、日本においては、各専門分野・職種を超えて脳性麻痺の患者さんとともに連携する団体がありませんでした。そのためもあって、脳性麻痺にかかる臨床・基礎医学において先進諸国に大きくおくれをとり、国際的な標準治療の導入が滞っています。
このような現状を変えるために、小児神経科、整形外科、リハビリテーション科の医師が集まり、脳性麻痺などの小児期発症の運動障害がある方々に対するより良い介入システムの普及と、それを支える社会環境の整備を目指して、特定非営利活動法人「日本脳性麻痺・発達医学会」を設立しました(2018年6月6日)。脳性麻痺に関わる医師、療法士、心理士、看護師、保健師、教師、保育士等の専門職の連携を促し、国内外の知見を広め、患者さんとご家族に対する最新の包括的な介入方法の発展を目的としています。法人の使命としては、①全国共通レベルの医療・福祉・教育システムの整備、②生涯にわたる介入システムの構築、③基礎・臨床研究の推進、先端医療の実用化、④患者・家族の参加促進を掲げています。
まず、年1回の総会に合わせて全国の関係職種を対象とした脳性麻痺フォーラムを開催します。既存の学会とは異なり、国内外の専門家を交えた討論や症例検討、技術指導によって専門の垣根を越えて世界レベルの知識が得られるプログラムを提供します。今年は海外の著名な専門家を招聘し、充実した議論が行われました(CPフォーラム報告参照)。また、米国と国内多施設とで脳性麻痺がある方のQOLに関する共同研究を進めています。評価や治療の均てん化を進めるため、地域の中核施設でのセミナーや市民公開講座も始めます。
今後の活動についてご意見、ご提案があれば、遠慮なくご連絡ください。また、このような主旨に賛同し、支援していただける方や団体があれば、ご紹介をお願いいたします。